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8月6日:巨大自然災害と文明 ―東日本大震災を踏まえて-

2011/08/07 6:10 に Jun Inutsuka が投稿

     東海大学海洋学部 杉本隆成

要旨

 かって怖いものの代表は、「地震・雷・火事・親父」であったが、果たして「今日の文明」の下ではどのようになっているのであろうか?「地震と津波」の次に来るものは、西日本や東海地方の山地斜面なら、集中豪雨に伴う洪水と「土石流」といった所であろうか?

そこで、今回は初めに、日本列島における「巨大自然災害」に関わる自然現象である地殻・大気・海洋内に生じる「突発的な変動現象」の特徴について解説する。その中でも、自分の専門に近い「津波」、「高潮」という海洋現象に注目するとともに、それらが「災害」として、人間の生存・生活に及ぼす際の「人為的諸要因」の面に重点を置いて、述べておきたい。

 

 次に、20113.11の東日本大震災と、51年前に起きた伊勢湾台風高潮を踏まえながら、「自然災害と文明の盛衰」との関わりについて、日本経済の高度成長期の初期と終焉期の社会状況にそれぞれどのように影響したのか、或いは影響しつつあるのかについて考えてみたい。高度成長期初期の「伊勢湾台風」の後には、日本全国に「海岸防波堤と道路、港湾施設等」が着々と整備され、その周りに工場地帯や商業地、住宅地が広がり、「環境保全より経済成長優先」で今日に至っている。

 現在の庶民の生活は、少なくとも20年前までは何の心配も無く、マイカー、マイホーム、種々の電機製品の利便性を楽しみ、過剰なほどに消費生活を謳歌してきた。しかしながら、製鉄や造船等の重化学工業は韓国、中国に抜かれ、あるいは工場の海外移転が盛んになり、国内の空洞化が始まった。一方、バイオテクノロジーや情報科学技術、および金融システム操作等の面では、米国等に大きな遅れを取るようになってしまった。

 

 その米国も、金融資本のマネーゲームと商社の投機的取引に翻弄されて、地道なモノ作りや実体経済の世界に暗い影を落としている。日本における労働者の雇用もパーマネントなものが減って、生活はますます不安定なものとなり、自殺者や離婚率が急増している。

 

 他方、国際貿易収支の関係から、農林水産物の自由化により、地方の一次産業と労働者人口が、減少と高齢化の一途をたどっており、このまま10年もすれば、壊滅の危機に瀕していた。

 

 このようなときに、水産物の一大拠点であり機械類の部品の拠点でもある東日本に巨大津波が襲来したことによって、破滅的な打撃を蒙った。従って、高齢者の多い農水産拠点は衰退・破滅の時期を早めていると云える。しかし、その根元から、未来への構造改革と若い働き手が育つ好機・ニッチェが与えられているのかも知れない。

 

 人々の日常の物質消費生活は50年間に過剰なまでに豊かになり、さらに、この20年間に、新自由主義経済のもとに、労働市場は終身雇用から解放された。しかし、雇用は逆に極めて不安定なものとなり、人々の絆は細く精神的にも不安定化して、「幸福度(QOL)」が著しく低下していることに気付き始めていた。そんな時に、「東日本大震災」に見舞われ、被害者救援活動で「心の絆」を結び合う中で、「何を大切にして生きるべきか」に目覚めたと云える。

 

 最後に、この震災復興の契機を「現在の文明のchangeにどう活かすべきか」について、被災者集団や救援団体、行政、学校が一致協力して、文明復興の具体的な行動計画まで詳細に検討し、社会全体で必死に実践していく必要があるように思われる。

 

東日本大震災は日本の経済文化社会に何をもたらすか?

 

 

 経済的影響への対応

  (1) 東日本漁業の衰退の加速それとも構造改革と再興

  (2) 原発の縮小・廃止と省エネ・節電の加速

     自然エネルギーの開発と物質再循環型の自然共生

  (3) 金融資本主義的市場経済からの保護貿易的修正と

     電気・機械等製造業の海外移転に伴う不況の克服

          文化・社会的影響への対応

  (1) 外国人労働力受入れと少子高齢化による歪の修正

  (2) 個々人の能力主義的格差社会の共同体的修正

  (3) 物質過剰な時代から質素な生活への価値観と生活

     スタイルの転換

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