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共有性(Commonship)と新文明のヒントを求めて

2011/06/01 17:16 に 染谷臣道 が投稿   [ 2011/06/20 8:57 に ユーザー不明 さんが更新しました ]
52829日に石巻と南三陸町で被災地支援活動に加わって来ました。生活者の記憶を刻みながら近代文明の廃墟とも言わざるをえない瓦礫に接し、また、市場や社会システムの寸断を前にして、私たちが来らせるべき文明は、こうした限界の根本的克服を組み込んだ文明でなければならないことを実感しました。

 

今回の発表では、動的な共有性=コモンシップ(commonship)を切り口にして、新文明を構想したいと思います。共有性とは、「人間にとって大切な諸価値の総体が増すように、分け、又は、合わせて共にもつこと」であり、この場合の人間は、自然の一員として捉えます。

 

環流文明研究会におけるこれまでの議論では、厳しい資源予測のデーターに基づき、エネルギー省力化、再生可能エネルギーの導入、人口問題のソフトランディング、食糧安全保障などの重要性が具体的に提示されてきました。

 

私は、これらの提案を含む、新たな文明の達成のためには、「分け、又は、合わせて共にもつことによって一人あたりの使用価値、交換価値、効用が低減する」という考え方を貫徹する、近代文明に内在している占有原理を克服していく必要があると考えます。

 

とくに、物質の基本単位に関わる原子力技術、生命の基本単位に関わるモダン・バイオテクノロジー、枯渇性資源について、占有原理を許してきた今日の文明の問題点を明るみに出すために、共有性の議論が不可欠となります。

 

瓦礫を生み出さないことを理想とするバイオミミクリー(Biomimicry:生物模倣科学)、現在の市場システムの限界を乗り越えようとするミレニアム・プロジェクトと世界基金、生命資本主義(Vita Capitalism)などの近代文明の限界の克服をめざす新たな試みの核心には、自然と人間の共有、人間間の共有につながる発想を析出することができます。

 

総合的かつ動的なコモンシップの視点によって、今日の個々のコモンズ(commons)研究が示唆してきた知見を、文明的テーマに接続することが可能になるはずです。

 

占有原理から「環流」を導くには、非常な迂回路が求められ、あるいは、その試みの多くが不可能となると私は懸念します。しかし、共有性が基礎にあれば、「環流」へとつながり、収奪性の克服を志向する文明の創造を動機づけることができるのではないでしょうか。

 

コモンシップ論のアウトラインを描きながら、以上の論点を検討する予定です。私は、拙著『共存の哲学 複数宗教からの思考形式』(2005)のなかで、人間間の共存、人間と自然の共存、未知との共存という三つの共存形態の必要性を担保する重要な人間経験として、複数宗教経験(inter-religious experience)を論じました。

 

共有性のテーマは、さらに新文明の創造という課題を考えるなかで浮上してきたものです。今後、理論的にも事例的にも鍛え、諸般の研究と接合させつつ、育てていきたいと考えています。みなさまのご教示、ご批判をたまわりましたら幸いです。


濱田陽

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