比較文明学会研究例会・東洋大学国際共生社会研究センター・共催 日時:2011年10月22日(土)13時~17時 場所:東洋大学白山第2キャンパスB棟B306教室
「現代文明の彼方に-フクシマ原発事故で考える-」のタイトルのもとで以下のような発表と議論が交わされました。
1.最初に染谷が趣旨説明を行いました。西洋に起源をもち、世界化した現代文明は多大なエネルギーを使用せずには成り立ちません。それゆえに近時ますます大量のエネルギーを消費し、それがさまざまな問題を引き起こしてきました。火力発電が引き起こす問題もそうですが、フクシマ原発をはじめとした原発をかなり問題の多いところに造らざるを得ないのもその一つでした。その限界が目に見えている現在、そうした現代文明に替わる文明、つまり環流エネルギー(再生可能エネルギー)に依存し、かつ少エネルギーの新たな文明を構築することが必要ですが、それは可能かどうか、と問いかけました。
2.金子晋右氏(東工大、横浜市大)は「ポスト現代文明の構想-旧世紀の遺物アメリカン・ウェイ・オブ・ライフからの脱却」と題して、自家用車の保有に象徴される豊かな物質生活、それは20世紀前半にアメリカで生まれた生活様式つまりアメリカン・ウェイ・オブ・ライフですが、ピークオイルを迎えつつある現代ではすでに遺物に他ならない。従って、少エネ・省資源・低環境負荷の文明を構築しなければならないと訴えました。
3.次いで星野克美氏(多摩大学)は「エネルギー危機とエココミュニティ~脱原発・自然エネルギー以降の文明的課題~」と題して、原発のコストの高さから始め、自然エネルギーもコストが高いのでその導入には合意形成が必要なこと、すでに起こっているピークオイルと20年代のガス・石炭・ウランのピークアウトで世界的なエネルギー危機が不可避であること、石油を素材にして生産される樹脂やレアメタルの希少化そして鉛や銅の枯渇から自然エネルギーに依存することも困難であること、それらから20年代以降の工業生産も困難になることなどから、地域の生態や資源条件に対応した、エネルギー・食糧自給型で地産地消型で地域分散型の文明を構築することが迫られていると訴えました。
3.池田誠氏(東洋大学)は「エネルギー人口論と国際共生社会」と題して、バイオマス系、化石燃料系、自然再生可能系、原子力発電の4分野からなるエネルギー供給が70億人を養っている現代世界が1700年以降に起こった最近の変化であること、ピークオイル後の脱原発を考えた場合、バイオマス系、自然再生可能系で可能な世界をマルティ・エージェント・シミュレーションで模索しているが、その結果、環流文明の国際共生社会こそがローリスクでローリターンなあり方になると述べました。
4.以上の発表を聞いて思ったことは、一方で脱炭素、他方で脱原発の声がますます強まっている現代、縮減や縮小が強く要請され、将来に対して閉塞的にならざるを得ないということでした。少エネ・省資源の促進や、大量生産・大量消費の抑制などが避けられないからです。しかしそうした観念をもつことは発展主義的観念に取り込まれた現生人類には受け入れがたいはずです。とはいえ、この研究例会の発表が示したような事態が近づいていることを考えれば、観念を変える必要は避けられません。観念を変える痛みをどう越えられるか、そこに人類の運命が掛っていると考えます。
5.議論は多岐にわたりましたが、モノの消費を伴わない記号だけの消費の推奨、産業革命以降の人類史は長い人類史のなかでも特殊であり、一大転換期であることの認識、持続的成長の矛盾、草食系をポジティブに捉えることの必要性、個人の才能は社会の共有であること、格差はみじめな人がみじめにならない限りで許されるが、現状はそれを越えていることなどが論じられました。(文責:染谷 |