2012/05/20 7:57 に Jun Inutsuka が投稿
第25回 環流文明研究会は、予定通り、2012年3月24日(土)午後1時から5時まで、実践女子大学日野キャンパスで行われました。JR日野駅から中央線に沿った小高い丘の上にある同大学で行われるのは初めてでした。犬塚先生のご尽力、ありがとうございました。なお、次回(4月21日(土)午後1時~)も同様、実践女子大学日野キャンパスで行います。 出席者は、神出、星野、犬塚、金子、末武、濱田夫妻、杉本、染谷の9名でした。体調を崩された方や仕事の関係で出席できないと何人かの方々から事前にメールをいただきましたが、早く回復されることを祈念しております。 議論は大変活発で、刺激に富むものでした。本研究会に集まっている研究者はさまざまな分野の方々ですので当然ですが、さまざまな角度から様々な疑問と意見が出され、参加者は新たな知見に接し、視野がさらに拡大したことと思います。「収奪文明から環流文明へ」という大問題を掲げている本研究会ならば、当然ながら、論議すべきことは広く、かつ、深くなります。議論は尽きないでしょう。 発表は、「「神の視点」の言語文化と「虫の視点」の言語文化」、「新興国インドネシアに新しい環流文明を見た」 「ジャワ心学における「神の視点」と「虫の視点」の融合」を私が短く紹介(報告)するつもりでしたが、たくさんの質問とコメントが出され、1時間半を費やしてしまいました。 その後、神出さんから「現代科学技術文明の功罪と新しい科学技術の胎動」と題する発表がありました。予定ではその後、星野さんの「自然・精神・科学の統合:partⅡ」でしたが、神出さんの発表と質疑応答で5時になってしまいましたので、星野さんの発表は次回に行うことになりました。 「「神の視点」の言語文化と「虫の視点」の言語文化」に対しては、「神の視点」の「神」をめぐって議論が交わされました。この概念は言語学者である金谷武洋さんが、やはり言語学者である森田良行さんの「鳥の視点」を踏まえ、それを彼なりに言い換えたもので、私は、文明を形成する言語文化ではないかと考え、注目してきました。金谷さんのいう「神の視点」の「神」は、高い位置から見下ろす目です。それを示すうえで格好な例文if you find yourself in Oxford, it’s nice to meet…を挙げれば明確かと思います(この文は最近私の友人(アメリカ人)が送ってきた挨拶の言葉です。彼はサバティカルで来月からオックスフォードに行きます)。その目はただ高所から見つめる目なのですが、政治性を帯びると支配者の目となります。金谷さんは著書でブッシュの例などを出して説明していますのでそれは明白です。 それに対して、「神」は慈愛の神でもあるのだから、「「神の視点」という言い方は誤解を招くのではないか、という質問が出され、「超越者の視点」としたらどうかという意見が出されました。これならば誤解の余地はないでしょう。 「新興国インドネシアに新しい環流文明を見た」では、とくに日本との関係で、従来は「従属」的なスタンスであったインドネシアが目覚ましい経済発展を背景に、日本との関係を対等に捉える姿勢が見えてきているという意味で、そこに新たな環流が生まれつつあるのではないかという考えを述べました。それに対して、経済発展の結果、収奪性が高まっているのではないか、もしそうだとすれば、新しい反環流文明が生まれていることにならないか、という質問が出されました。その通りです。したがって現代インドネシアを見ると矛盾した状況が現れていることになります。これは興味深い問題だと気づきました。 「ジャワ心学における「神の視点」と「虫の視点」の融合」については、いずれまた詳しく説明します。 「現代科学技術文明の功罪と新しい科学技術の胎動」では、現代科学技術の功罪をまとめた上で、評価科学(regulatory science)、ポスト・ノーマル・サイエンス、ローカル・サイエンスという新たな科学技術の胎動を論じました(詳しくは、神出さんがネットで送った資料をご覧ください)。たくさんの質問やコメントが出されました。たとえば、シェールガスの採掘にあたってその技術や薬剤を公開しない囲い込みはローカル・サイエンスか(オバマ大統領は中国に技術の伝えると約束したとのことが、後に出されましたが)、グリーンレヴォリューションなど先進国企業による、途上国の女性や子供たちの労努力を奪う戦略に対抗するバンダナ・シヴァらの試みなどです。他に科学技術者の倫理性の問題、科学者が資本主義経済に巻き込まれている危うさ、科学の方法に対する疑念、本来は多様なマラリア病原体を単純化して見る医学の問題などが論じられました。 次回は、星野さんと、末武さんが東アフリカのイスラム圏交易文明と植民地化されたあとの変化を論じることになっています。どちらも興味深い発表です。ご期待ください。(文責:染谷) |
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